阿呆だ阿呆だと言われている金造だが、共につるんでみれば阿呆というよりは子供の様な男である。成人したばかり、と考えれば幼さが残っていてもなんら不思議は無いが、そういった部分では逆に世間擦れしていなさ過ぎて拍子抜けする事の方が多い。兄弟が多く、そして目上の人間に囲まれているせいか息をする様に自然な他者との接し方は、血筋を感じずにはいられぬ似通った面立ちに次いで志摩家兄弟の共通項だろう。差異があるとするならば、表層は穏やかな次男、年相応に過ぎる五男と比べても四男はどうにも表情が薄い。喜怒哀楽に乏しい、という意味ではない。現に末っ子を見付けた時の金造の、いきいきとした顔といったら他に類を見ないし、次男と共に居る時には声を上げて笑ったり情けない顔でしょぼくれていたりする。

 鬼の様な形相で飯を掻き込む食事時を別として、警邏中でさえのんべんだらり、時折鼻歌を口ずさんでいるような有様に、見兼ねた父である八百造の拳が雷の様な勢いで頭の天辺へと落ちる光景は目新しくも何ともない。場所や時間を問わず、寝ようと思えばすぐに熟睡できるようで死んでいるのかと思わず呼吸や脈を確かめたくなるくらい深く静かに眠る。起き抜けは少しばかりぼんやりしているが寝惚けた様子は見た事が無い。表情薄く、緊迫感とも縁遠く、食う事と寝る事に対しては驚く程に貪欲である。食う寝る、とくれば残るは一つ。

「面白がっとるやろ、金」

 火天の加護により火の属性を得たキリクを肩に担ぎながら、先陣である一番隊へ指示を飛ばす柔造をにやけた顔で見詰めていた金造へ声をかけると、楽しそうに喉を鳴らしながら視線だけをちらり、一度投げて寄越した。しかしそれも直ぐさま逸らされる。喉の内側から肺腑から息をする度にじりつくような熱を感じる濃い瘴気の中、警邏中と変わらぬ緊迫感の無い横顔は鼻歌でもうたいだしそうなくらいに楽し気である。名前と同じ金色の髪の下の柔いラインを描く眦が、好戦的な獣めいた笑みに細くなる。

「わかる?」
「お前の今の顔、今まで見た中で一等だらしないで」
「そら笑うやろ。今目の前におんのはご先祖様の代から続く因縁の相手やぞ」
「いちびるのも大概にしよし」

 己が生まれる以前から続く、明陀宗にとって一番の敵である不浄王を目の前にしてあまりにも常と変わらぬ金造を嗜める様に語調を強めてみても、その顔から笑みは消えない。食う事と寝る事と、遊ぶ事に余念のない男は進撃、の声にキリクを持ち直し、駆け出した。傷んだ金色の髪が赤黒い炎に照らされて染まる。

子供の世界

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