鼻先へ伸びてきた手を佐助は手甲のない剥き出しの手でぱしりと払った。軽い音はやけに響いて、手を伸ばしていた政宗は不機嫌そうに左目の下瞼に小さな皺を作る。睨まれた佐助はすっかり身に着けた馴れ馴れしさで肩を竦めて笑った。

「お触り厳禁ですよ。って、何遍言わせたら気が済むの」
「言う気が無くなるまでだろ」
「地味な嫌がらせ?懲りてよ、いい加減」

 言い合う合間も懲りずに伸びてきた手を、今度もまた、払う。固い胼胝だらけの指ではなく、まだ多少は柔い肉の残ったてのひらで、同じ様に固い指の向う先を変えてやる。何度も何度も、それこそ飽きも懲りもせず、頬や鼻筋へと伸びる手の目当ては佐助の顔に塗られた暗緑色の塗料。それを拭おうとする指先を払うだけでなく、今度は握りこんで止めた佐助は、面倒くさそうに勢い良く息を吐き出した。

「もう、さァ。懲りてよ。俺様の顔がそんなに好み?」
「笑えねェ joke だな。そもそも、」

 笑っている唇とは裏腹に、隻眼を細め穿つ様に佐助の顔を覗き込みながら政宗は淡々と問う。

「そりゃァ手前の自前の顔なのか」
「さあねえ」

 常の様ににんまりと、猫の様に笑う佐助は捕まえていた固い指先を引き寄せ口元を隠す。指の皮膚越し、声を伴わない唇の動きに気付いた政宗は、短く鼻を鳴らして捕まった手を振りほどいた。

のっぺらぼう

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