小脇に布の塊のようなものを抱えた成実は、私室に入るなり無言でまじまじと部屋の主の顔を眺めた。瓜二つと評される血の濃い従兄弟殿は今日も今日とて煙管を銜え、脇息に体重を預けながら寛いだ様子で驚きもせずに成実を見上げている。何をしに来たかと問う代わりに、喉の隆起を晒す様に顎を持ち上げ尖らせた唇からふぅ、と紫煙を吐き出した。座していれば顔へと吹きかかっているだろうその所作に、はつりと瞬いてからようやく成実は膝を折って腰を下ろした。小脇に抱えた塊がもぞりと動く。獲物を見つけた獣の様に政宗の視線が下を向く。

「今度は何拾ってきやがった」
「認知、する?」
「脈略なく喋ってンじゃねェよ。主旨が全く見えやしねェ」

 煙管の吸い口に歯を立て、唸る様に声を低くした政宗に対し怯みもせず一つ頷いた成実は、淡々と荷解きでもするような手つきで布の包みを解いた。もぞもぞと小さな手が布の中から成実の固い指先を捕まえ、薄墨のような色の大きな眼が眩しそうに細められ、ふわふわと柔らかな髪に血色の良い頬はふっくらしていて桃のような手触りを連想させた。愛らしい赤ん坊だが、此処へ来るまでの運び方へけちをつける事も出来ずにその顔を一目見た途端、むつりと政宗は黙り込んだ。無表情のまま、ちらりと横目でそれを伺いつつ成実はあやすようにふにゃふにゃと柔らかい身体を膝の上に抱き直す。

「政宗に似てるよね」
「………………damnit to hell !!」
「いつ仕込んだの」
「人を種馬扱いするなよ、それに俺に似てたらお前にも似てるだろうが!」

 至近で怒鳴り合うような遣り取りにぐずりもせず、成実が掴まれたままの指であやす赤ん坊は呑気に笑った。その笑い声に毒気を抜かれた様に肩を落とした政宗は、落ち着こうと煙管に新しい葉を詰め火種を移し、煙草盆をそっと成実から遠ざけるように押し遣る。ふわりと立ち上る霞。煙る視界でも隻眼はじ、と成実の膝の上を注視して離れない。軍議の最中でも中々お目にかかれない、その表情を笑うでも無く眺めていた成実は指を掴んでいた小さな手をそっと引き剥がし、おもむろに赤ん坊を抱き上げると政宗の膝元へと押し付けた。

「剛胆そうだし、政宗に外も内も似てると思ったんだけど」
「頓狂な事抜かすな」
「そう?でも、ほら――、」

 喋りながら音も立てずにそっと立ち上がった成実は、足音を忍ばせ襖の前へにじり寄ると腰に携えていた愛刀を鞘から引き抜き、撫で上げる様に下から上へと斬りつけた。骨組みの折れる音に被せる様に振り上げた足で真っ二つに割れた襖を蹴り飛ばし、その勢いのまま廊下へと飛び出すが、右を見、左を見、舌打ちを零して振り返る。右手に抜き身の刀をぶら下げた物騒な格好のまま、政宗の膝の上で泣きもせずにいる赤ん坊を見て息だけで笑った。

「肝が太い。政宗そっくりな図太さだ」
「何か居たのか」
「そう思ったんだけど」

 首を捻りながら手首を返し、刀を納めながら煮え切らない口振りの成実は未だ外を気にしている。見えない神経がささくれているのを感じ取った政宗が、犬でも追いやる様に手を振るとうん、と誰にとも無く頷いてそのまま廊下を歩き何処ぞへと向う背中は、既に赤ん坊の事が抜け落ちた様に躊躇いが無い。結局押し付けられた形となった膝の上のぬくい赤ん坊を見下ろした政宗は、煙管を煙草盆へと音高く打ち付け、包みごと赤ん坊を抱き上げた。泣きもせずにじっと見詰めてくる無垢な目と、何かを欲しがる様に伸ばされた手に頬を寄せながら、城内で唯一、政宗相手に平手を喰らわせる乳母の部屋へ出向くべく、重い腰を億劫そうに持ち上げた。

姑獲鳥

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