晴れていると言うのにちっとも眩しく無い陽の光も、はっきりしない煤けた様な鈍い色の空も、その空からばらばらと降る雪も、色が欠けた様に白けていて、ただただ日差しを反射する雪だけがやたらと眩しく目に飛び込んで来るので、佐助は目を細めながら眼下を見下ろした。すっかりと葉を散らした枯れ枝の上で膝を折り曲げ、腹を抱える様に丸くなった佐助の視界に飛び込んでくるのは七竃のような赤。犬の尾のように揺れる鉢巻と茶色い髪。真冬の、この糞寒い中拳一つで殴り合う師弟の姿は季節に似つかわしく無くとても暑苦しい。息も絶えよ声も絶えよとばかりに叫ぶ幸村と信玄の咆哮に重なる様に、松の枝に積もった雪がどさりと地に落ちた。

「旦那ー」
「おやかたさぶぁああああああああ!!!!!!」
「ゆぅきむるぅぁああああああああ!!!!!!」
「旦那ー、それに大将もー。そろそろやめにして汁粉でも食いに行きましょうよー」

 佐助の声なぞ耳にも届かぬ師弟二人の拳は止まる事無く、拳どころか足まで出始め、最終的には二人から溢れる炎が雪を融かして水蒸気を吹き上げた。もうもうと立ち上る白い湯気と、雪の下の氷った土が泥となり、それすらも乾き切る二人の火力に平原で良かったと佐助はしみじみ溜め息を零す。山裾でこんな事をしていたら獣は驚くだろうし下手をすれば雪崩でも起きるかもしれない。何を馬鹿なと笑い事として受け取れないのは、この二人が揃っていると雪崩程度ならば未だ生温いと思えるからだ。鉄火な気質の二人の事だから、さんざんに拳で語らえば後は早いのだがそれまでが長いのが難点である。

 さてどうしたものかと、頬杖をつきながらも結局、差す水を持たぬ佐助は傍観するしか術が無い。無口な佐助の腹の虫の代わりに、空高いところを飛ぶ鳶が高く鳴いた。

冬枯れの上で待惚け

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